千本桜ホール支援プロジェクト『踊る日々紡ぐ日々』特別インタビュー

劇場のために、表現のために、いま 僕ができること。

今回、村田正樹が4月というひと月をかけて開催する『踊る日々 紡ぐ日々』は、3年前に同タイトルで開催された公演とはもちろん、今までに行ってきたどの公演とも異なる。それは、目的が「千本桜ホール」のために行われるというところが大きいのだが、やろうと決めてから創り上げるまでのスピード感には、正直、スタッフも(きっと千本桜ホールの三田さんも)驚かされた。今回、自分の表現の機会としてだけでなく、劇場のためにこうした機会を設けようとしたのには、どんな想いがあったのだろう。そして、何が彼を突き動かしたのだろう。プロジェクトが動き出したばかりの某日、それを紐解いてみたくて話を聞いた。

チラシで再会した10年前の自分に背中を押されて

─ 今回、なぜ「千本桜ホールの支援プロジェクト」として公演をやることになったのでしょうか?

千本桜ホールでは、過去2回、初めてのソロ公演と5年前のソロ公演で使わせていただいことがありました。そこで、オーナーの三田さんともお話させていただく機会はあったのですが、その後はお互いにFacebookの投稿を見たり見ていただいたりという感じ。そんな三田さんから昨年の12月に久しぶりのご連絡をいただいたんです。

 

それは、「撮影できる環境も整っているので、機会があったらホールとコラボして何かやりましょう!」という内容。昨年1年間は、千本桜ホールに限らず、多くの劇場が大変な状況にあることは理解していましたし、三田さんご自身も日本舞踊の踊り手で、芸術文化活動支援事業『アートにエールを!』*1 にも作品を提出されていることは存じあげていたので、いつか千本桜ホールとなにかできたらな、とは思っていたのですが、その時はすぐに動けないまま新しい年を迎えてしまって。

2月に入った頃、再び三田さんからご連絡をいただいて、その際に今年の公演予定も延期やキャンセルが相次いでいるというのをお聞きしました。ホールのことも利用の可能性も含めて、一度じっくりお話し聞きしてみようと思い、久しぶりに三田さんにお会いしたんです。そこで、劇場運営の厳しい現状もお聞きして。新型ウィルスでの影響はしょうがないけど、三田さんご自身も表現者だから、この劇場を諦めたくない気持ちがあるんだろうなぁ、って感じて。

 

あらためて、「ホールは空いているので、よかったら村田さんも使っていただけませんか?」と言っていただいた時に、撮影で1日使うということは簡単にできるかもしれないけれど、もうちょっと何かできるなっていう気がしたんです。

─ もうちょっと何か。そこで数日のステージをやろうというのではなく、1ヶ月かけた壮大なプロジェクトになったっていうのがすごいですよね!

確かにそうですよね(笑)。三田さんとお会いした時に、初めてソロ公演をやったのがここなんです、っていう話をしたら、三田さんが過去の公演のチラシを全て大切に保管されているファイルの中から、僕の10年前の公演のチラシを取り出して見せてくれたんです。そしたら、そこに〈ここからはじまりました。また戻ってきます。〉って書いてあって。

その公演というのは、住んでいた家が火事になって(この話はぜひnoteでご覧ください!)、突き動かされるように決めた1日だけの公演で、自分的には〝超原点〟。お世話になっている方も友達たちも、みんな応援するような気持ちで見に来てくれたから、客席には知らない人が一人もいないっていう環境で。やってよかったなぁ、って思える公演でした。

 

そのチラシを久々に見たら、その時の記憶も感情も鮮明に蘇ってきたんです。ここからはじまったなぁって思ったら、なんだか勝手に感動しちゃって(笑)。それで、何かやらないと!って思って。

 

そこで思いついたのが、以前いろんなゲストと共に創り上げた『踊る日々紡ぐ日々』で。いろんな人の力を借りて、このホールを知ってもらうきっかけづくりくらいならできるんじゃないかと。それで、今回の支援企画をご提案させていただいたんです。それで、2月後半からゲストのみなさんにオファーしはじめて、バタバタと動き出したっていう感じなんです。

 

話を聞きに行く時点で、ぼんやりと何かやろうとは思っていたと思うんですけど、ここまで壮大な企画になるとは自分でも思っていませんでしたね(笑)。

─ 三田さんとお会いしたことが、思いがけず、ご自分の表現のはじまりと再び出会うことにもなったんですね。

そうなんです。だから、今回の公演は、千本桜ホールの支援が主軸ではあるんですけど、自分にとってもいい機会のような気がしています。10年前と同じステージに立って、今の表現をすることができたら「よし、次に行くぞ!」って思えるだろうなって。ひとつ、マイルストーンを置くというか、先に進むために過去の自分にOKを出せそうっていうか。今感じていることを確認して、次に何をやるのかを考えらそうな気がしています。

 

昨年からの動けないジレンマもあって、ずっと何かやりたいとは思ってはいたんですけど、まだ新型ウィルスも落ち着かない状況ですし、自主的な公演だったら動いていなかったかもしれません。でも、「一回ここで振り返っておけよ」って何かに言われているみたいに、機会の方からやってきてくれたっていうか。そういう思ってもみなかった流れがやってくるのは、おもしろいなぁと思います。

 

最終日である5月1日は、『MURATA黄昏41』と題したソロ公演を行います。それは、僕にとって「いってきます!」みたいな機会になると思っています。シンプルに踊ることに向き合うっていう感じにしたいなって。原点に帰って次に進む機会として、配信せずに10年前と同じように、来てくれた人だけのために踊ろう、その時だけのその空間を来てくださった方と味わいたいと思っています。

無くしてはならない表現の場に集ってみんなで感じたい

─ 村田さんご自身、実際にお客さんを入れて公演を行うのは久しぶりだと思うのですが、この1年でステージに立つことへの意識は変わりましたか?

ここ1年で、配信という新しい表現の場が生まれたじゃないですか。そこに対しては、僕は可能性が広がったって思っていて、ポジティブに捉えています。だから、前回の筋肉発表の配信は、新しい場でどんなことができるのかを試みる機会でもありました。

 

でも、昨年の12月に、今回もゲスト出演していただく振付師の下司尚実さん(23日出演)のお誘いで、舞台芸術を未来に繋ぐみらい基金のイベント『Mirai CHANNEL on LIVE』*2に一緒に出演させていただいて、80人くらいのお客様の前で20分くらいパフォーマンスをした時に、やっぱりリアルってすごいというか、配信とは明らかに違うなっていうのを感じたんです。もちろん高揚感も違うのですが、観てる方の反応があることによって、表情ひとつ取っても、出てくるものが変わってくるのを実感して。笑い声が聞こえたら、もっとこうしてみようっていうアイデアが瞬間的にががーって出てくるっていうか。

これまでの公演でも感じていたことですが、みんなが集中して観てくれているのがわかれば、自分もどんどん研ぎ澄まされていく感じがあって、その場にいる人たちと〝一緒に創っている〟感じがするんですよね。こういうのは、今のところは配信だとなかなか難しくて、お客様が目の前にいる劇場じゃないと感じられない特別な感覚です。

─ 村田さんのソロ公演て、思わず笑ってしまうようなおもしろいシーンに心が解けたり、かと思ったらタップでぐーっと惹きつけられたり、その繰り返しによってうっかり揺さぶられて、最後にはすっかり村田ワールドに引き込まれてしまっているんですよね。

意図的に、そういう瞬間を持とうとしている部分はあるかもしれません。踊っている人と見ている人の中に生まれる空気もありますし、見ている人たちの中での空気もありますしね。リアルだと、同じ空間の中にいろいろな人がいる時点で、何かしらの関わり合いみたいなものはあるから、その舞台はその場でしか生まれないものになっていると思います。それって、すごいことじゃないですか。

 

配信は、多くの人に見ていただけたり新しいことができたりするので、そこにも良さはありますが、劇場でしかできないことがあるのも事実で、そういう表現の場は無くなってはいけないなと、昨年末あらためて感じていました。そういう再確認の体験があったから、千本桜ホールの現状をお聞きした時に、やれることはやりたいって瞬間的に思ったんじゃないかな。「大変でしたね」で終わってしまっては、自分が後悔するような気がしたんです。

─ ゲストの方とも、そういう表現の場についてとか、お話しされましたか?

ダンス劇作家の熊谷拓明さん(2日出演)や多目的打楽器奏者のハラグチヨシフサさん(3日出演)、コンテンポラリーダンサーの藤田善宏さん(25日出演)とは昨年もよく話していましたが、その他の方とも舞台を創り上げる中でそういう話をたくさんすることになると思います。前回の『踊る日々紡ぐ日々』もそうだったのですが、ゲストの方とは、今どういうことを思っているかとか、創る過程でいろいろなことを話した上で、一緒にステージに立ちたいっていう気持ちがあります。分かり合えることもあれば、分かり合えないこともあると思うんですけど、それも含めて共有したいんです。

回によっては、トークセッションのような形で、ステージの上でいろいろお話できたらなとも思っています。僕やゲストの方が思っていることを、見てくださる方にも伝えたいですしね。

 

場があって、表現する人がいて、支えてくれる人がいて、見てくださる方がいて。舞台って、どれが欠けてもだめなんですよね。重い話にはしたくないんですけど、それを見ていただくことでなにかを感じていただけたらと思います。さまざまな意見や想いを伝え合ったり、演者も観客も含めてエネルギーを交換したり、いろんな意味で風通しのいい場所にしたいです。

─ 今回は、これからも表現をし続ける意思表示というか、パフォーマンスを通した大きなアクションのようにも感じているのですが、いかがでしょうか?

この1年は、大変な中でも試行錯誤しながら表現し続ける人と、静かに力を蓄えながらも時を待っている人がいたのかなと思います。僕は、どちらかというと後者だったのですが、前向きにいろいろな形で表現を続けているゲストのみなさんにも触発されて、今回、突き動かされた感じがありました。

今回の公演って、実はなかなか無謀なことをしていると思うので(笑)、後からあらためて「あの時、よくやったな!」ってことにはなりそうな気がしています。やりきったら違う景色が見える気がするというか。もしかしたら、開かない扉をノックし続けるようなところもあるかもしれないのですが、やり続けたらほんの少しは開きそうな予感もしていて。

 

誰かのためになにかやるって、すごいエネルギーが出てくるんですよね。今回は、劇場のためであり自分のためでもあるんですけど、それを久しぶりに実感しています。映画『となりのトトロ』で、土に植えたドングリに向かってみんなで祈ると、「ぽんっ!」て感じで芽が出るっていう好きなシーンがあるんです。そのシーンみたいに、今回の公演をみんなで創ることができたら、なにかちょっとは「ぽんっ!」て出るくるんじゃないかな、って思ってるところがあって(笑)。いつか大きな木になったらいいな、とか。

演者もスタッフも見にくる人も、関わってくださるみんなでこの公演を創って、みんなで何かを感じられたらいいなと思っているんです。どの公演もその時1回きりのもの。毎回ちがったおもしろさを感じていただけるので、配信と組み合わせながら複数回見ていただくのもおすすめです。一人でも多くの方に興味を持っていただいて、ご覧いただけたら嬉しいです。

このアクションは、すぐに結果が出るというよりも、巡り巡って未来の何かを動かす、みたいなパワーを秘めているような気がする。大げさに聞こえるかもしれないのだが、興味を持つこと、チケットを買うこと、劇場に足を運ぶこと、その魅力を発信すること、その全てが、広い意味でこれからの表現活動や劇場の存続に関わっていく、と信じずにはいられない。ご縁の巡り合わせや、ありがとうの循環と同じように、すべてのアクションは巡り巡って行くのかもしれない。だって、思い出してほしい。そもそも今回これだけ村田を奮い立たせたのは、10年前の自身ソロ公演であり、思いがけず目にした当時のチラシ。この公演は、長い時をかけてブーメランのように戻ってきたきっかけを受け取り、これからの劇場のため、表現のため、そして自分のために思い切って起こした村田正樹のひとつのアクションだ。この一石が、ここから波紋のように広くどこまでも届いていくと信じて。

*1:東京都独自の芸術文化活動支援事業。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に伴い、活動を自粛せざるを得ないプロのアーティストやスタッフ等が制作した作品をWeb上に掲載・発信する機会を設けることにより、アーティスト等の活動を支援するとともに、在宅でも都民が芸術文化に触れられる機会を提供するものです。

 

*2:「舞台芸術を未来に繋ぐ基金=みらい基金」を通じて繋がった舞台芸術関係者が集まるコラボレーション・イベント。2020年12月18日—20日に下北沢ザ・スズナリで開催された。

 

 

Interview&Text:Orika Uchiumi

Photo:Yuji Tanno

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